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大阪家庭裁判所 昭和39年(少ハ)6号 決定 1964年6月03日

本人 M(昭一九・五・一三生)

主文

本人を昭和四〇年五月三一日まで医療少年院に継続して収容する。

理由

第一本件申請の趣旨は、

少年は昭和三七年一二月七日大阪家庭裁判所において、虞犯保護事件(昭和三七年少第一二三〇八号)で中等少年院送致の決定を受け、加古川学園に収容され、次いで昭和三八年八月七日肺結核治療のため京都医療少年院を経て豊浦医療少年院に移送され、入院加療の生活を続けた者であるが、昭和三九年五月一三日をもつて二〇歳に達するところ、その病状はなお引続き加療を要する段階にあり、その家庭環境も不良であるので、今後一年間少年の収容を継続する必要があると認められる。よつて少年院法第一一条により標記のとおり申請するというにある。

第二当裁判所の判断は次のとおりである。

医師山田珍三作成の診断書、当裁判所調査官の調査報告書(二通)、当審判廷における本人および林○正の各陳述等によれば、

(1)  少年本人は昭和三八年八月七日肺結核(粟粒結核)治療のため京都医療少年院より豊浦医療少年院に移送され、以来同院において加療を続けて来た。その結果本人の病状は入院時に比して大分好転し、現在では自覚症状は全くないようである。然し未だ社会に出て通常の勤労生活を継続してゆける程度に至つていず、今後なお約一年間位は引続き加療が必要であること。

(2)  同院に収容される少年は通常安静、準安静・黄組、青組、赤組、紫組とその病状の回復にほぼ平行して定められた処遇段階を経て仮退院乃至退院に至るわけであるが、少年本人の処遇段階は青組で、特別反則事故は犯していないものの未だ最上段階にまで達していないこと。

(3)  少年本人の家庭事情をみるに、父は既に死亡し、母は義父と寄せ屋内にあつて屑回収の仕事に従事し辛うじてその生活を維持している現状で、現在において少年本人を家庭に引き取り、同院における如き療養生活を少年本人に続けさせる経済的能力は皆無であり、又右状態が近い将来において改善される見込みもないこと、

(4)  而して少年本人は将来洋服店などに住み込みミシンを使う仕事に従事したい模様で、病気が全治するなら今後一年間ぐらいは辛抱する意向であること

の各事実が認められる。

以上の諸事実を綜合判断すると、少年本人を今直ちに退院せしめるのは適当でなく、この際なお相当期間医療少年院における収容を継続して従来同様加療および矯正教育を続け、将来退院のあかつきには洋服店等に住み込み通常の社会生活を継続維持できるよう心身の健康を回復、増進するのが相当であると思料する。而して、その期間は病状、少年の更生意欲その他諸般の事情を考慮して、昭和四〇年五月三一日までと定めるのが相当である。

よつて、本申請はその限度で理由があるので、少年院法第一一条により主文のとおり決定する。

(裁判官 油田弘佑)

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